2012-06-01から1ヶ月間の記事一覧

「漂泊論」・28・身体の物性からの旅立ち

1.自分という場所 生き物は、「死」という自然の摂理に打ちひしがれている存在である。われわれは、そこから生きはじめる。 僕自身は、失恋がつらいものであるのかどうかということはじつはよくわからないのだが、深く愛していたからこそつらいとかあきら…

「漂泊論」・27・「自分を好きになる」という制度性、あるいは権力

1・この世に好かれるに値する人間は存在するのか? 基本的には、人の気持ちなどわからないし、人がなんと思おうと人の勝手だ。 好きになってもらえればありがたいが、好きになってくれと要求する権利など誰にもない。 でも、自分で自分が好きなら、人からも…

「漂泊論」・26・みそぎの旅

1・三角関係という制度性の発生 共同体の基礎は、三角関係の上に成り立っている。三角関係の一方をはじき出す、というかたちで正義=権力が生まれてくる。 そのはじき出された体験から、ルサンチマンが生まれてくる。そうして、自分がはじき出す側に立ちた…

「漂泊論」・25・新しい「問い

共同体(国家)は、異民族の圧力に対抗して自分たちだけの結束を守ってゆくというかたちで生まれてきたのだろう。 家族という単位がだんだん大きくなっていって共同体になったのではない。共同体ができたあとから、その限度を超えて大きく密集した集団の運営…

「漂泊論」・24・失恋というみそぎの旅

1・人に好かれたい 自己愛が強い人は、自分のことが好きではない相手を許せなくなってしまうらしい。 相手が自分のことが好きではないことに耐えられない。だから、誰からも好かれようとする。 問題は、耐えられないほどに相手の気持ちがわかったつもりにな…

「漂泊論」・23・確信の構造

1・「確信」なんかできない 人の心は、どのようにして「確信」するのだろうか。 それは、自分で自分を説得することだろうか。完璧に自分を説得してしまうことを「確信」という。 自分で自分を説得することばかりしている人間は、他人を説得するということも…

「漂泊論」・22・閉塞感の正体

1・支配し支配される関係の起源 われわれ現代人の心には、「支配されている」という思いが抜きがたくある。 しかし、何に支配されているのかということが、よくわからない。そこかがやっかいだ。 もちろん政治権力は鬱陶しいが、それだけじゃないし、この思…

「漂泊論」・21・太古の記憶

1・原始人は、凶悪で混沌とした心の動きの持ち主だったのか? 原始人と現代人のどちらがわけのわからない混沌とした心を持っているかといえば、現代人の方に決まっている。衝動殺人とか快楽殺人とか戦争による大量虐殺とか、そんなわけのわからないことは現…

「漂泊論」・20・「合理的な判断」という病理

1・人間を生かしているもの 原初の人類は、「知能」によって言葉をイメージしたのではない。言葉=音声を発するほかないようないたたまれなさを抱えて存在していたのであり、音声を発することがカタルシスになったからだ。 人が生きてあるためには、そうい…

「漂泊論」・19・知能なんか関係ない

1・人間は、微笑む生き物である たとえば喫茶店とか飲み屋とかコンビニの従業員がいつもお客に対して愛想よく笑っていられるとしたら、それは、いつも愛想よくしていなければならないという規則を自分に課して堅持しているからか、それともただ人と向き合う…

「漂泊論」・18・幻滅からの旅立ち

1・ジェネレーションギャップ いまどきの大人たちは、どうしてこうも鬱陶しく煩わしい存在なのだろう。 ジェネレーションギャップは、いつの時代もどの国にもある。しかし、この国の大人と若者のギャップほど不健康なそれもないのではないかと思える。 対立…

「漂泊論」・17・人間であることのストレス

1・若ものと大人の会話のセンスの違い いまどきの若者はコミュニケーションの能力がない、と大人たちがいう。 コミュニケーションの能力がないということは、言葉が貧しいということだ、とも。 そうだろうか。 ではいまどきの若者は会話の楽しさを知らない…

「漂泊論」・16・原初の言葉

1・「もの」とは「森羅万象」のことか 「もののあはれ」の「もの」は、「森羅万象」を意味しているとはかぎらない。そういう「意味」という機能は、「もの」という言葉が生まれたあとに付け加わっていっただけのことで、その「意味」を表現・伝達するために…

「漂泊論」・15・生きてあることのくるおしさ

1・「もの」再考 「もののあはれ」の「もの」という言葉のことを、もう少し書いておくことにする。 「もの」という言葉のことを書こうとすると、いつも書いても書いても隔靴掻痒の感じになってしまう。 言葉は「意味の伝達」ではなく「感慨の表出」としては…

「漂泊論」・14・もののあはれ

1・「きれい」というイメージ この地球上から人間がいなくなれば、いやもうこの地球そのものがきれいさっぱり消えてなくなってしまえば、それはそれですっきりすることだろう。 消えてなくなることは、そんなに悪いことじゃない。 それは、ひとつのカタルシ…

「漂泊論」・13・帰郷

現代人の心は、誰もが病んでしまっている。現代社会を生きる能力それ自体が病んだ心なのだ。もちろん僕の心だって病んでしまっているが、ユダヤ人や内田先生ほどではない。だから、現代社会を生きる能力は貧弱だ。僕には、彼らほどの他人を説得し支配しよう…

「漂泊論」・12・もっとイノセントに

1・コミュニケーションは人類の希望か 人を支配し操作したければ、コミュニケーションの能力を磨けばよい。そしてこういう能力は、どちらかというと嫌われものの方が素質がある。嫌われものはもう、人を支配し操作することによってしか人との関係が結べない…

「漂泊論」・11・ジャパンクール

1・思春期の恋と友情 マンガというのはあなどれないなあ、とつくづく思う。この国のマンガ文化が「ジャパンクール」として世界に発信されている理由はどこにあるのだろう。 世界中にこの国のマンガマニアがいるらしい。 「ジャパンクール」としての「かわい…

「漂泊論」・10・別離

1・原始人は、猿のような熾烈なテリトリー争いはしなかった 親しい人との別れは、つらい。 なぜつらいのだろう。 猿はたぶん、人間ほどつらいとは思っていない。なぜなら、余分な個体を群れから追い出す習性を持っているから、そういう心の動きが深化すれば…

「漂泊論」・9・「出アフリカ」という旅

1・人類拡散の契機 「集団的置換説」を唱える研究者たちは、4万年前にアフリカのホモ・サピエンスという人種が大挙してヨーロッパに進出していったという。 しかしそのホモ・サピエンスだって、原住民であるネアンデルタールを駆逐できるほど強くて優秀な…

「漂泊論」・8・旅の歴史のはじまり

僕はもう、電車の優先座席に座っていても誰からもとがめられない老人だが、そこに座ったことがない。そこしか空いていなくても、そこには座らない。いちおう立っていることができるから、座る権利はないと思っている。そこは、立っていられない人がいつでも…

「漂泊論」・7・疲れ果てて

1・長距離移動の能力という問題 現在のマラソン界は、アフリカの黒人たちの天下である。 アフリカのトップ選手と日本選手との差は3分くらいある。距離にして700メートル以上、かなうはずがない。 しかし、だからといって彼らが長距離移動の能力があると…