2013-03-01から1ヶ月間の記事一覧

祝福し赦している存在・「天皇の起源」35

1 ほとんどの歴史家は、縄文時代からすでに呪術があったようなことをいっている。まあそれは彼らにとっての疑うべくもない常識で、社会全体でそのように合意されている感がある。 僕が「そんなことあるものか」といっても、立ちはだかる壁は厚い。だから僕…

戦後社会の憂愁・「天皇の起源」34

1 1950年代の日本の風景は、戦争の傷跡を残してまだ荒涼としていた。 僕が小学校に入学したのは、50年代の中ごろだった。そのころの伊勢の住宅街にはアメリカ軍によるたぶん面白半分らしい散発的な爆撃による焼け跡があちこちに残っていて、僕の家の…

日本的なアナロジー思考・「天皇の起源」33

1 弥生時代の奈良盆地は、すでに大きな都市集落になっていたが、支配者の政治が存在する共同体(国家)ではなかった。 共同体(国家)が生まれる以前の人類は、ひたすら「いまここ」をこの生のすべてと思い定め、「いまここ」に体ごと反応して暮らしていた…

憂き世なればこそ・「天皇の起源」32

1 <承前> どんな社会であれ、こんなにもたくさんの人間がひしめき合って暮らしていれば鬱陶しいに決まっている。その鬱陶しさから逃れるために、支配者になったりリーダーになったり金持ちになったりしてみんなよりも優位な場に立とうとする。 貧しい庶民…

「憂き世」という伝統・「天皇の起源」31

1 「お上」というか、日本列島の住民は国家に対して従順なところがある。だから、この国では革命が起きない。しかしそれは、国家(世間)を肯定し親密な感慨を持っているのではない。その鬱陶しさを嘆きつつ受け入れ、無理やりなじませているだけである。 …

いまどきのモンスター・「天皇の起源」30

1 日本列島の民衆の天皇を祀り上げる心は、いまだに続いている。これは、戦後の左翼的な空気の中で育った僕としてはちょっとした驚きだった。 子供のころは、天皇制も多くの伝統的な習俗もいずれはなくなってしまうのだろうな、という漠然とした気分があっ…

民衆の時代意識と身体性・「天皇の起源」29

1 日本史のルネサンスは安土桃山時代にあるとか江戸時代の元禄文化にある、などと一般的にはいわれているらしいが、そうじゃない。 現在の衣食住のことにしろ美意識や世界観や生命観の精神性にしろ、この国の「和風」といわれるスタイルの基礎は室町時代に…

中世とルネサンス・「天皇の起源」28

1 能の源流は、平安時代に生まれてきた「猿楽」にあるといわれている。しかし最初はただの曲芸とか手品とか物真似のようないわゆる大道芸だったのだとか。 そのころ先輩格のライバルとして「田楽」があった。こちらは田植えの前に豊作を祈る「田遊び」から…

舞のカタルシス・「天皇の起源」27

1 弥生時代の奈良盆地に文字がなかったということは、呪術も神という概念もなかったことを意味する。したがってそこでの巫女は呪術師ではなかった。ただもう美しく舞い踊って人々の心を癒す存在だった。 原始神道の神社は、巫女の館だった。人々が捧げもの…

弥生時代の舞の様式・「天皇の起源」26

1 起源としての「天皇=きみ」は、弥生時代の奈良盆地の巫女だった。このことは多くの人がいっているし、それはきっとそうなのだ。 僕が気に入らないのは、その巫女が「卑弥呼」のような呪術師で支配者だった、といっている点だ。 卑弥呼なんか、そのころの…

巫女の起源・「天皇の起源」25

1 天皇は、奈良盆地の祭りから生まれてきた。 まず、美しく舞い踊る思春期の少女たちの集団が見い出されていった。そしてその少女たちを山の中に住まわせ、巫女として純粋培養して育てていった。そこから起源としての天皇が生まれてきた。 古代の巫女は、舞…

市(いち)と祭り・「天皇の起源」24

1 世の歴史家が天皇の起源を語るとき、どうして政治的な存在である支配者=王として登場してきたと当たり前のように決めつけるのだろうか。 世界中どこでも人間の歴史とはそういうものだと安直に考えてしまっているからだろう。 しかし、海に囲まれた日本列…

身体作法の伝統・「天皇の起源」23

1 現代人は、自分の意志で身体をどう扱うか、という作為的な問題意識で生きている。身体はどのように動くのか、どのように動いてしまうのか、という発想はしない。だから、かえって身体の動きがぎこちなく、とっさに体の方が勝手に動いてしまうという体験が…

革命の不可能性・「天皇の起源」22               

1 この国の戦後は、良くも悪くも、ひとまず戦争の反省として伝統を捨てて新しく社会をつくりなおそうというスローガンではじまった。 伝統は日本人の弱点=限界であり、その象徴である天皇という存在はなくさないといけないという左翼の発言が優勢になって…

無垢な存在・「天皇の起源」21

1 古事記に書かれている天皇の名は、すべて神と同じように「……の命(みこと)」というかたちになっている。 「みこと」という言葉は、どのように生まれてきたのだろうか。 「み」は、「気持ちが定まる」とか「腑に落ちる」というような感慨から発声される。…