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女性論 女性論

西洋では、女性器のことを「ヴァギナ」という。
やまとことばでは「ほと」。
同じものとは思えないくらい音感が違う。
「ほと」とは、不安とか停滞という意味。とらえどころのない不安で世界と向き合っているさまを表現している。「ほとほと困り果てる」という。そして「ほとぼりが冷める」というときの「ほとぼり」とは、身辺の不安のこと。
「ほ」は、「ささやか」とか「ひっそり」といった感慨の発声。
「と」は、停止とか遮断の感慨。
やまとことばとしての「戸（と）」は、家の者の出入り口というより、来訪者を迎えるところ、という意味の方が濃かった。
やまとことばの「ほと」がそのようなニュアンスを持っているのであれば、それは女の感慨から生まれてきた言葉である、と言えるはずです。「ほと」とは、不安と期待に濡れながらペニスの来訪を待っているところ。
しかし「ヴァギナ」という言葉には、なにか凶悪なものであるかのような響きがともなっていて、西洋の男たちはそれを怖れたり憎んだりしているのだろうかと勘ぐりたくなる。すくなくともそれは女じしんの感慨から生まれてきた言葉ではないように思えます。西洋のフェミニズム運動の困難さは、おそらくこんなところにもある。ここから女じしんの感慨から生まれてくる言葉を取り戻そうとするなら、あと何百年もかかるにちがいない。
まあ、西洋と日本列島では、女性器に対する感じ方がずいぶん違うらしい。たぶん、社会の構造と同じくらい違う。
「おめこ」とか「おまんこ」は、男から見た呼び方なのだろうが、どこか親しみがこめられている響きです。「ぼぼ」とか「ぼんぼ」というときには、無邪気な驚きがある。
それに対して「ヴァギナ」という呼び方は、いかにも屈折している。西洋の男たちがそれをどこかしらで怖れたり憎んだりしているとしたら、それを母親の性器として見ているからだろうか。
女性器とは、赤ん坊が生まれてくるところである･･････この解釈は、論理的に正しい。しかし僕はそんなふうに女の性器を眺めたことなど一度もないし、自分がそこから生まれてきたという実感もない。僕にとってそれはもう遠い遠い過去のことであるし、自分がそんな体験をしたということがよくわからない。僕はほんとうに母親の性器から出てきたのだろうか。そんなことあたりまえじゃないかと言うあなたは、論理的に正しい。しかし、われわれの根源的な意識においてそれが実感されているだろうかと問うなら、それはきわめてあやしい論理になる。
「過去」は存在したのだろうか。このことを率直に、あるいは哲学的に問うなら、「わからない」という答えしかないはずです。
僕は、自分が女の性器から生まれてきたと思っていない。いやたぶん、そんなことを根源的な意識において実感している男なんかひとりもいないはずです。観念的にそう納得しているだけです。観念だけで生きていける男は、そう納得していればいいさ。でも僕は、そんなおりこうな人間ではない。
西洋では、人間存在を問う哲学として「われわれはどこからやってきて、どこに行こうとしているのか」というのが普遍的な命題のように言われています。観念だけで生きている人たちにとっては、それが最大の問題であるらしい。彼らがそんなことを言うとき、自分は女の性器から生まれてきたという思い込み（確信？）がある。
しかし僕は、自分が「どこかからやってきた」という実感がないのです。したがって、「どこかに行くだろう」という確信も持てない。そんな哲学的命題に思い悩んだことなど、一度もない。
いや、夜寝る前にときどきそんな観念にとらわれて「うぎゃあ」と叫びだしたくなるときがあるのだが、ふだんの目をあけて暮らしている最中には、おばかだからすっかり忘れてしまっている。
ふだんの僕が確信（実感）できる場所は、｢今ここ｣しかない。
僕は日本人だから、女の性器を「いやらしいなあ」と思って眺めることしかようしない。それはあくまで「おまんこ」であり「ぼぼ」なのです。そこから自分が生まれてきたなんて、思いようがない。なぜなら、自分が生まれてきた存在であるということじたいがよくわからないからです。
西洋のフェミニストたちは、ただ男が女を支配しているということだけじゃなく、男たちが、女の性器をなにかわけのわからないような屈折した感情で眺めているということも気に食わないのでしょう。西洋では、男と女が、観念的な関係になりすぎている。それはたぶん、男たちの責任です。男と女の関係が観念的だから、ホモやレズが多くなるのでしょう。
西洋の男のペニスは、勃起してもあまり硬くならない、と言われたりする。それは、意識の底にヴァギナに対する怖れを抱えているからかもしれない。怖れの強い男ほど、硬くならない。
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