人間は、体を動かそうとして動かしている。物が自然の作用でただ動いているのとは違う。動こうとして動いているから人は、他人が何をしようとしているのかがわかる。つまり「予測」ということができる。
科学が、そんなことは分子の運動の結果にすぎないといっても、たとえそれが正解であっても、それでも人間は「〜しようとしてする」という「予測」の世界観で生きている。
朝の通勤電車に乗れば、まわりの誰もが会社に行こうとしている、と予測するだろう。しかし、ほんとうに会社に行くかどうかはわからないのだ。途中の駅で降りて、海に遊びに行ってしまう人だっているかもしれない。自分だって、そういう気にならないともかぎらない。それが、人間の感性である。誰もが「予測」するが、誰もが予測の通りに行くかどうかわからないという気持ちも持っている。
当たり前のようにして会社に行ける人なんて、ほんの少しかもしれない。多くの人は、その胸のどこかしらで途中の駅で降りてしまいたい衝動を疼かせているのかもしれない。だから、携帯をいじったり新聞を読んだりして気を紛らわせている。そのとき人は、会社に行こうとなんか思っていないし、途中の駅で降りてしまいたいとも思っていない。
そういう「〜しようとしてする」という世界観の外にいる。そういう世界観の外に立つことこそ、じつは人間の心や行為の基礎になっているのだ。そういうことこそ、われわれのこの生の支えになっているのだ。
人間は「体を動かそうとして動かしている」あるいは「〜しようとしてする」という世界観(心の動き)で生きているし、現代社会はそのことの上に成り立っている。そんなことくらいは、僕だってわかっている。わかっているが、それでもわれわれ人間の生を成り立たせているのはそういう心の動きではないし、だから社会は予測の通りには動いてゆかないのだ、と言いたい。
なぜこの社会は、予測の通りに動いていかないのか。それは、人間の心や行為が予測を外れて動いてしまうからだろう。そういう「なりゆき」というものがある。「なりゆき」を甘く見ちゃいけない。「なりゆき」こそが人間を動かし、人間の世界観を決定しているという部分もある。
人間は会社に行こうとして行っている、とはいえない。行くしかないから行っている人はたくさんいる。行こうとなんかしないのに行くことができることこそ、われわれの生を支えている。それは、誰もがどこかしらで「なりゆき」にまかせる心の動きを持っているからだ。
たしかにわれわれは「体を動かそうとして動かしている」と思っているが、それが人間の生を支えている根源的な「感性」だとはいえない。われわれはどうしようもなくそう思ってしまうが、それでもそんな心の動きは、ただの制度的な観念にすぎない。
人間の根源的な「感性」は、なりゆきにまかせるということにある。なりゆきにまかせながら、文明や文化が生まれてきたのだ。
人間は、言葉を生み出そうとして生み出したのではない。言葉は生まれてきてしまったのだ。二本の足で立って歩こうとしたのではない。二本の足で立ってしまったのだ。ここのところが、大切なのだ。人間は、生きようとして生きているのではない。生きてしまっているのだ。
この社会は「〜しようとしてする」という「予測」を共有してゆくことの上に成り立っているが、それでもわれわれひとりひとりのこの生は、なりゆきにまかせるという心の動きに支えられている。そういう心の動きに裏切られて、評論家や政治家の予測は外れるのであり、じつはそういうなりゆきにまかせる心の動きから文化や文明が生まれてくるのだ。
才能とは、なりゆきにまかせることのできる能力である。才能があるなら、努力しようとなんかしなくても、そのことばかりに熱中してしまう。そういうことがわかっていないアホな人類学者たちが、アフリカのホモ・サピエンスが世界中に拡散していっただの、「計画力」や「抽象化の能力」で言葉が生まれてきたなどとマンガみたいなことを言う。
ヨーロッパのネアンデルタールとアフリカのホモ・サピエンスと、どちらに言葉を進化させる才能があったかといえば、ヨーロッパのネアンデルタールのほうに決まっている。彼らのほうが、おしゃべりに熱中してしまう状況を生きていたからだ。
寒いからみんなが洞窟に集まってくるし、火を囲んでおしゃべりに熱中してゆけば、寒さのことなんか忘れてしまう。そういう状況が、言葉を進化させる才能を育てていったのだ。
状況が才能である、ともいえる。
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