僕は、大切なことを見落としていた。セックスアピールの起源について考えるなら、生き物の生殖行動のことにも触れておくべきだろう。
いきなり「嘆きを共有してゆくことだ」と結論を語ってしまうのは、ちょっと唐突すぎたかもしれない。
まず、生き物の雌雄はどのように発生したか、という問題がある。
これは、直立二足歩行の起源と同じで、今のところは何を言ってもすべて仮説でしかない。しかし、直立二足歩行の起源よりも、証拠が発見されて結論が出る可能性がなくもない。
微生物にも雌雄はある。だからそのことが起きたのは、気が遠くなるくらい昔のことに違いない。
アメーバは、自分の体が分裂してゆくだけの単体生殖で、雌雄はない。しかしそこから少し進化した微生物になると、もう雌雄があらわれてくる。
僕は文科系だから、そのへんの事情はまったく知らない。ただこれは、文学的な想像力を刺激する問題でもある。
とりあえず、アメーバのような単体生殖の生き物が進化もしくは変容して雌雄に分かれた、と考えることは可能だろう。
オスとメス。
人間の男の性器だって、女の性器の変容したかたちだといわれている。胎児は、最初は男か女かわからないらしい。男でも女でもないということだろうか。半年以上たって、はじめてペニスが生えてくるのがわかる。そうやって女性器だったものが変容してくるのだろうか。
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とにかく、最初は単体生殖の微生物だった、と仮定しよう。
そこから、雌雄に分かれた方が効率的にたくさん子孫を増やせるからそういう戦略をとるようになっていった、などという俗流進化論は信じない方がいい。そんなものはただの思考停止だ。
いわゆる「進化」とは、つねに「ミスコピー」なのだ。何かの間違いであり、何かのはずみなのだ。
アメーバは、つねに自分と同じ体をコピーして分裂してゆく。しかし何かのはずみで「ミスコピー」してしまうことはあるにちがいない。
このときアメーバのもとの体には、同じ体をコピーして生み出そうとする意図はない。ただ、体が成長すればいろいろ不具合が生じて余分な部分が分裂してしまうだけのことだろう。分裂した部分が勝手にコピーしてゆくのだが、それは、アメーバのかたちにならないと生きられないような組成になっているから自然にそうなってゆくのだろう。
なりたくなくてもそうなってしまう。ここのところは大事である。自然とはそういうものだ。われわれだって、つまらない人間になんかなりたくないのに、けっきょくはつまらない人生を生きてしまう。
生き物には、自分の体をコピーして自分と同じ体をつくっていこうというような衝動(本能)などない。
われわれの体は、古い細胞が死滅してすべて新しい細胞に変わっても、体そのものは同じである。それは、自分の体をコピーしようとする本能があるとか、遺伝子にそういうはたらきがあるとか、そういうことではなく、同じ体でないと生きられないような組成にすでになってしまっているから避けがたくそうなってしまうだけのことだろう。同じ体でなければ、筋肉や内臓の動き方もぜんぶ新しく変更していかなければならない。同じ体になってしまうだけのこと。
生き物の本能にも遺伝子のはたらきにも、自分の体をコピーしようとする目的などない。ただそうなってしまうだけのこと。
生殖衝動などというものはない。ただ、体のはたらきにうながされてそういう行動をしてしまうだけのこと。
ちんちんが硬くなるとか、おまんこが腫れるとか濡れるとか、そういうことは生殖衝動ではなく、たんなる体の仕組みの問題なのだ。
遺伝子に自分の体をコピーしよう(自己複製)というようなはたらきはない。ただもう自然の仕組みとして自分の体をコピーしてしまうようになっているだけのこと。
つまり、種族維持の本能とか、優秀な子孫を残そうというような衝動など根源的にははたらいていない、ということだ。これは、セックスアピールの問題ともかかわるから、ひとまず確認しておきたい。
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体が成長して大きくなってゆくことだって、ひとつの「ミスコピー」かもしれない。成長期の若者は、毎日毎日自分の体をコピーすることに失敗している。だから、心も不安定になってしまうのかもしれない。
生き物の命のはたらきに「自己複製の目的」などというものがあったら、成長して体が大きくなってゆくということなど起きない。
また、結果として自己複製してしまうから、若者が「大人になんかなりたくない」と言い出したりもすることになる。彼らはつねに自己複製に失敗して生きてきたから、これ以上失敗したくないと思う。若者に大人になれということは、ミカンは酸っぱいから嫌いだという人間にもっと酸っぱいレモンをかじれといっているようなものだ。
コピーしようとする目的など持っていないのだから、ミスコピーはどうしても起きてしまう。それが、自然なのだ。
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では、ミスコピーが起きてしまったアメーバは、どうやって生きてゆくのだろう。
生きてゆけるはずがない。体が成長しないのだから、分裂する余地も生じなくて単体生殖もできない。
分裂した瞬間は、もとの個体より小さな、もとの個体の一部分でしかない。ミスコピーが起きてしまえば、もとの個体の一部分のまま死滅を待つだけである。
そのときアメーバの環境が悪化して、ミスコピーがたくさん起きるようになった。
もしもそこで、不完全な一部分どうしがくっついてアメーバのかたちになったら、どうなるのか。
それはもう、アメーバではないアメーバ、というようなものだろう。体が成長して分裂しても、ミスコピーされた不完全な一部分しか生じない。しかしその一部分は、他の一部分とくっついて完全なアメーバになるという性質を持っている。
また、分裂して完全な個体になったとしても、それ以上成長しないから、分裂することがない。
分裂(単体生殖)する個体もあった。しかしそこから分裂していった個体はもう、他の個体とくっつこうとする性質を持ってしまっている。そしてくっついてもすでに完全なアメーバのかたちになっているから、合体することはない。くっついてもすぐ離れる(分裂する)。で、離れるときに相手の体の一部分を自分の体に取り込んでしまったとき、それは余剰を抱えてしまったことだから、やがて自己分裂(単体生殖)してゆくことになる。
そのようにして、くっついて離れる、という性質を持った個体がたくさんあらわれてきた。そうしてそのとき、余剰を抱え込んでしまう個体と、一部分が欠落してしまう個体とに分かれていった。
余剰を抱えているからその部分が削られる、ということかもしれない。もともと余剰ができてくるとその部分が分裂してしまう生き物なのだ。
生き物は、だいたいオスの体の方が大きい。もとはといえば、余剰を抱えているのに細胞分裂できないアメーバだったからかもしれない。
とにかくそのようにして、細胞分裂する個体とできない個体に分かれていった。
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ひとまずそのような雌雄が分かれてゆく過程を思い描いてみたのだが、何はともあれ、環境が悪化して不完全な個体がたくさんあらわれてきたことが契機になっているのではないだろうか。
もっと繁栄するためとか、そんな戦略があったとは思えない。生き物は、もっと繁栄しようとなんか思わない。居心地がいいのなら、そのままでいようとするだろう。個体数が増えれば、それだけ自分の取り分が少なくなって居心地が悪くなるのだから、なんでわざわざそんな戦略を立てるものか。
アメーバは、個体数を増やすために細胞分裂してゆくのではない。体が大きくなりすぎたら身動きが取れなくなってしまうからだろう。つまり、生き物の根源の衝動に、種族維持とか種族繁栄のための戦略などない、ということだ。
子供をつくるためにセックスしている生き物なんか、人間以外にはいない。人間だって、根源的にはそんな目的でセックスしているわけではない。
生きてあることのいたたまれなさから解放される行為として、人は、セックスをしたり、学問をしたり、芸術をしたり、スポーツをしたり、冒険や旅行をしたり、金もうけに励んだり、政治をしたり、宗教を信じたりしているのだ。
何はともあれセックスが基本的な生きるいとなみだとすれば、それは不完全であることの補償行為としてはじまっているのではないだろうか。種族維持とか種族の繁栄のためなんかじゃない。
不完全であることの嘆き、それが、雌雄の発生の契機だと僕は思っている。
セックスアピールの問題だって、この根源とつながっているのではないだろうか。
いい男ぶったってだめなんだよ。女は、不完全であることの嘆きを持っている男にセックスアピールを感じている。
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