やまとことばと原始言語 37・「弧族」という出会いのときめき

2020年問題、というのがあるのだとか。
それは、団塊世代後期高齢者になっていろいろ世間にやっかいをかけるときがくる。介護されようと孤独死しようと、そういうやっかいな老人が大量に生まれ、しかもこれからますます人々の心はすさんで地縁社会や家族の崩壊が進んでゆくのだから、そのための対策を今から考えておかないといけない、という話だ。
そして、2030年問題というのもある。つまり、今ニートやフリーターといった不安定な暮らしをしている団塊ジュニアの世代の多くが、孤独な老人になって社会問題化してくるらしい。
こういう人々のことを「弧族(こぞく)」というらしい。とくに一人身の男の老人は、家族も友人もいない状況になって孤独死することが多い、という。
そういうさびしい老人は現在でも増えてきているのだから、団塊および団塊ジュニアという人口のかたまりが高齢化・単身家族化する2020・2030年以降はさらに悲惨なことになるのだとか。
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たしかに現在の独り者老人は、その暮らしを味わいきることができない人が多いのだろう。しかし、未来の独り者老人も同じかといえば、そうとはかぎらない。10年後の団塊老人は同じだとしても、団塊ジュニアが老人になったときにどんな意識でどんな暮らしをするのかは、われわれにはわからない。
彼らは彼らなりの老人文化を生み出すかもしれない。
老人社会が長く続けば、それなりの老人文化だって生まれてくるだろう。
近ごろ、知識人やジャーナリストたちが集まってよくこの問題を新聞や雑誌などで座談会をしていて、いつも悲観的なことばかりいっている。それは、彼らが心の奥で、庶民を見下しているからだろう。庶民は愚かだからわれわれのような人と人のつながりや自然を大切にする意識はなかなかもてない、だから、そういう啓蒙をしてゆくのが知識人の役目だ、と思っているらしい。
冗談じゃない、おまえらていどの意識くらい、庶民だって持っている。
現在の孤独な老人がうまく生きられないからといって、20年後も同じとはかぎらない。孤独な老人が増えて一般化すれば、孤独な暮らしに対する意識も変わってくる。
どうすればいいか、というような問題など存在しない。どうなってゆくのだろう、という問いがあるだけだ。彼らのことは、彼らが決める。彼らはどういう意識になってゆくのだろう、と問うことができるだけだ。
おまえらの啓蒙によって時代が変わるのではない。時代はすでに変わりつつある。われわれはその少しあとを追いかけて生きているだけである。われわれが時代を変えることはできない。時代がわれわれを変えるのだ。
さびしく死んでゆこうと、おもしろおかしく老後を過ごそうと、彼らの勝手だ。
そんなことは人それぞれだし、それぞれにそれぞれの固有の味わいがある。不幸であってはいけないという決まりなどない。
われわれは、時代の一瞬あとを生きているだけであり、時代はすでに変わりつつある。
つまり、われわれの意識の根源においては、「すでに生きてある」というこの生に追いつこうとしているのであって、「生きよう」としているのではない、ということだ。そういう実存の問題でもある。
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われわれ人間は、どうなってゆくのだろう。日本人は、どうなってゆくのだろう。
どうなるべきかという問題など存在しない。
西洋には、「最初の一撃」という思想があるのだとか。誰かが最初になにかをして、その連鎖反応として時代が変わってゆく、という世界観のことだ。
誰かが最初に二本の足で立ち上がり、それからひとりひとりその連鎖反応として立ち上がっていった、と彼らは思っている。
そうじゃないんだなあ。そんなことは論理的に成り立たないということは、このブログで何度もいってきた。それは、とても不安定でしかも胸・腹・性器等の急所を外にさらす姿勢であり、大幅に身体能力を喪失し危険な姿勢なのだから、誰もまねしようとするはずがない。それがもし群れのボスであれば、たちまちボスの座から引き摺り下ろされてしまうほかない姿勢なのだ。したがってそれは、みんなが一緒に立ち上がった、というかたちでしか成り立たない。
つまり、みんなが二本の足で立ち上がるような「時代」だった、ということだ。
人間の歴史は、みんなが一緒に何かをした、というかたちで動いてきた。
時代(=状況)が歴史をつくってきたのであって、誰かの「最初の一撃」が歴史をつくってきたのではない。
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たとえば、ミニスカートを最初に穿いた人間がいるのか。デザイナーが最初にミニスカートを発表したからだ、という意見もある。しかし、すでに誰もがミニスカートを穿きたがるような時代になっていなければ、誰もそのデザインに振り向かない。デザイナーは、そういう「時代」の流れをいち早くキャッチしただけなのだ。
ミニスカートを見てはじめてミニスカートを穿きたくなったのではない。すでにミニスカートを穿きたいと思っていたから、自分も穿いてみようと思ったのだ。
それは、「最初の一撃」による連鎖反応ではない。すでに誰もがミニスカートを穿きたがる時代になっていたのであり、歴史はそのように動いてきたのだ。
この世の知識人たちは、「使命感」などと称して、自分が世界=時代をリードしているといううぬぼれがある。おまえらだって、時代の一歩あとから時代を追いかけているだけなんだぞ。時代をキャッチしたことばでなければ、誰も同意しない。おまえの「最初の一撃」で時代が変わるのではない。時代は「すでに」変わりはじめているのだ。このことには、誰も抵抗できない。
時代とともに、みんなが一緒に変わってゆくのだ。それが、歴史である。
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家族が崩壊し始めている時代に、家族こそ人を救う、と叫んでもせんないことだ。
家族が人を救う時代なら、家族は崩壊しない。
今となってはもう、なぜ家族は人を救えないのだろう、と問うしかない。
われわれは今、「地縁=共同体」や「血縁=家族」によって心を癒されることができなくなり、もっと恣意的な人と人の関係を模索し始めている。そしてそれが何か新しいことのような気がするから、それに抵抗して「家族を取り戻せ」と叫ぶ人がでてくる。
べつに新しいことでもない。ようするに「遠くの親戚より近くの他人」という昔からいい習わされてきたコンセプトだ。
この国の伝統文化は、もともと共同体や家族の「秩序」によって心を癒されるようなかたちにはなっていない。その根源においては、恣意的な一期一会の「出会いのときめき」によって癒されるようなかたちになっている。いいかえれば、家族や共同体もまた、そういうコンセプトで成り立ってきたのであり、そういうコンセプトが崩れれば、家族や共同体の秩序も崩れるほかない。
現在のこの国で結婚しない単身の人が増えてきているということは、恣意的な一期一会の「出会いのときめき」を生きる人が増えてきているということだろう。そういうかたちでの人と人の連携が生まれつつある時代だからだろう。
そして日本語(やまとことば)は、そういう恣意的な関係の「出会いのときめき」を止揚するかたちで生まれ育ってきたことばである。現在のこの国で「弧族」とやらがたくさん生まれてくるのは、そういうことばを持った民族の宿命であるのかもしれない。
われわれはもともと、共同体や家族の秩序によって心を癒されるような民族ではないのだ。
べつに、悲観することもない。どのようなかたちであれ、人と人は寄り添いあって生きるようにできているのだから。
そしてそれは、「愛」の問題じゃない。生きてあることの実存としての「身体の輪郭」の問題なのだ。共同体や家族の秩序は、個体としての「身体の輪郭」を危うくさせる。だから、その秩序が壊れかけている。
いまや、大人は、若者や子供を教育管理することばかりしたがっているし、誰もが、政治のことから居酒屋の食い物にまでクレームをつけることばかりしている。そうやって人と人が干渉し合うことばかりしている世の中だということは、直立二足歩行前夜の原初の人類が限度を超えて密集した群れの中で体をぶつけ合いひしめき合って暮らしていたことと同じ状況だろう。
つまり、われわれは今、「身体の輪郭」をうまくとらえることができない状況を生きている、ということだ。
「身体の輪郭」は、他者との「出会いのときめき」によってよりクリアに浮かび上がる。われわれは今そのことに気づきはじめていて、その関係を模索しはじめている。そしてそれは、「弧族」と呼ばれる人たちによって模索されている。何はともあれ彼らこそ豊かな「出会いのときめき」を切実に体験している人たちであり、解決策は、彼らによって提出される。この時代をリードしているつもりのおまえらの薄っぺらな脳みそから生まれてくるのではない。おまえらが彼らに教えてやるのではなく、おまえらが彼らに問え。
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わかりやすいタイトルだけど、いちおう現在の若者論であり、日本人論として書きました。
社会学的なデータを集めて分析した評論とかコラムというわけではありません。
自分なりの思考の軌跡をつづった、いわば感想文です。
よかったら。

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