ネアンデルタールとホモ・サピエンスの接近遭遇はあったのか

北ヨーロッパネアンデルタールは、アフリカのホモ・サピエンスと出会ったか。
出会ったはずがないし、ホモ・サピエンスが、あの戦闘的でチームワークも優れているネアンデルタールを追い払うことなどできるはずがないのです。
しかも、家族的小集団で移動生活していたホモ・サピエンス北ヨーロッパに行ったとたんネアンデルタールのような定住生活を始めたなんて、そんな空々しいことに、いったいどれほどの必然性があるというのか。
なんにもない。
100万年以上ものあいだを10人か20人の家族的小集団で暮らしてきた人種が、いきなり100人か200人の群れを形成する能力を獲得するに際し、いったいどんな契機があったのか、きっちり説明してもらいたいものです。
「いきなり」じゃないとだめですよ。ゆっくり、なんて悠長なことをしていたら、そのあいだに全滅してしまうし、いったん衰弱すれば、ネアンデルタールに逆襲されてしまう。
つまり、研究者の説明にしたがうなら、最初からネアンデルタールなど蹴散らしてしまえるくらいの大集団を組織してヨーロッパに乗り込んでいった、ということになる。
昨日まで10人か20人でちまちま移動生活していた民族が、ですよ。
いったい何があったら、「よし、明日から三百人の群れを組織してヨーロッパに乗り込もう」なんてことを思い立つのですか。
移動しながらだんだん増えていったのだ、といいたいのだろうが、血縁によって組織された家族的集団は、本質的に血がつながっていない相手とは合流しないという性格を持っているのですよ。
その後の中央アフリカの歴史で、家族的小集団が合流して国家になっていったというような例は、何もないですよ。とくべつ大きな群れを組織してまわりの家族集団をどんどん吸収していったという例など、何もない。
そしていまだに、一つの国が、何百もの言語の違う部族によって構成されている、というようなやっかいな事態に悩んでいたりするのです。
アフリカのホモ・サピエンスは、本質的に大きな群れを組織できない宿命を負っているのです。
あれから4万年たってまだ克服しきれていないことが、どうして原始人の段階で、しかもいきなり克服してしまえるのですか。
まったく、考えることがむちゃくちゃじゃないですか。
彼らは、人間とは何か、ということを本気で考えたことがあるのだろうか。
彼らは、人間の歴史を問うことを、何かパズルゲームをすることくらいにしか考えていない。そういうレベルで「追い出す」だの「追い出された」だのといわれても、どうして信じられようか。
ミトコンドリア遺伝子の証拠がある、という。その証拠があれば、そんなむちゃくちゃなことを考えても許されるのですか。
僕のナイフで誰かが人を殺せば、僕は犯人にならなければいけないのか。
ミトコンドリア遺伝子の証拠があるということは、そういうことですよ。
4万3千年前のネアンデルタール的形質の人種が、北アフリカ西アジアで拾ったホモ・サピエンスの遺伝子を、リレー式に北ヨーロッパまで伝えていっただけでしょう。
ネアンデルタールであろうとホモ・サピエンスであろうと、原始人はどこにも行っていないのです。
みんなが、それぞれの土地で、けんめいに住み着こうとしていたのです。
人間に「住み着こう」とする意欲がなければ、ホモ・サピエンスが、くそ暑くて肉食獣がうようよいるサバンナになんか住み着くはずがない。
同じように、ネアンデルタールが、最初は赤ん坊が半分以上死んでしまったであろうような極寒の土地に住み着くことができたのも、そういう意欲のたまものでしょう。
人間が、ただ住みよい土地を求めて移動してゆくだけの生きものなら、今ごろアフリカのサバンナにも、寒風吹きすさぶシベリアや北米カナダにも、誰も住んでいないでしょう。そうして最終的には、チンパンジーやゴリラのように、けっきょくある一定地域に固まってしまうだけだったはずです。
ホモ・サピエンスは、けんめいにアフリカのサバンナに住み着こうとしていたのです。
ホモ・サピエンス人とかネアンデルタール人という前に、アフリカにはアフリカ人がいて、西アジアには西アジア人がいてヨーロッパにはヨーロッパ人がいた。この分布形態は、すくなくとも4万年前の時点でもう、動かないものとしてあったはずです。
追い払うことなんか誰もできないし、誰もしようとしなかった。そしてどの群れも移動しようとする衝動なんか持っていなかった。
原始人がしていたのは、「旅人を受け入れる」ということだけです。
しかしこれは、人間にしかできないことです。ネアンデルタールがこの生態を獲得したから、ホモ・サピエンスの遺伝子がヨーロッパ中に拡散してゆくことができたのです。
べつに、新天地を求めて群れが旅立っていったのではない。群れにそんな衝動はないし、原始人の文化レベルでそんなことができるはずもない。
しかし、二つの群れがともに大きくなれば、どちらかの群れのテリトリーは、必然的にずれて離れていく。
くっついていがみ合っているよりは、距離をとって安心して暮らしたかったからでしょう。
これも、「住み着こう」とすればこそです。
電車の中で、隣に太った人が座れば、こちらも体をずらす。それは、太った人が怖いからではない。ただ窮屈な思いをしてくっついていたくないだけであり、気持ちよく座っていたいだけです。ようするに、こんなようなものです。
そういうかたちで、いちばん外側の群れがどんどん外にずれていったのが、基本的な人類拡散の図式でしょう。内側はもう、動くスペースがないですからね、必然的に外側がずれてゆく。
研究者が、ホモ・サピエンスのヨーロッパ進出を説明する話のように、わざわざこちらからくっついてゆくというようなことは、戦争を知らない時代の人間の群れがすることではないのです。そんなことをしたがるなら、人類拡散なんかありえないのです。
安心して暮らせる居住空間を確保しようとして、人類は拡散していったのです。
とにかく、アフリカのホモ・サピエンスがヨーロッパを席巻したなんて話は、ありえないのです。

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