ネアンデルタールとホモ・サピエンスの人口問題

意を決して、ネアンデルタールの話に戻ります。
レヴィ=ストロースによれば、南米奥地の未開人であるナンビクワラ族は、冬の乾季のときはみんなが集まって野営しながら移動生活をしているのだが、夫婦のセックスだけは、二人で近くの森に入っていってするのだとか。
これは、彼らが基本的に一夫一婦制で、「家族」を持っているからでしょう。
家族のアイデンティティは、群れ(共同体)から独立し逆立してつくられる。
しかし家族がなかったネアンデルタールにおいては、セックスも、ひとつの群れとしてのいとなみだった。
また氷河期の北ヨーロッパの冬は、アマゾン奥地の寒さとは比べものにならないわけで、外に出たらセックスどころではない。何十人もが洞窟の中の焚き火を囲んで寝転びながら、そこでフリーセックスのようなことをしていたのでしょう。
スケベとか、そういう問題ではない。そういう環境であり、そういう社会の構造だった、ということです。
彼らは、セックスをして子供を産むことにとても熱心だった。そうしないと、乳幼児の死亡率が高く、成人しても寿命が短い状況では、群れの個体数を維持できなかった。
文化人類学的には、南の地域ではむやみに人口が増えないための制度が生まれやすく、北の寒冷地では逆に人口を増やそうとする生態になってゆくのだとか。だから北では、家族制度が緩やかになりやすく、性的な関係もおおらかになってゆく。
それにたいしてナンビクワラ族においては、子供を生んでから三年間は夫婦のセックスを禁止するという制度もあったりする。守られているかどうかは別として、それは、彼らが移動生活をしているために、乳幼児を何人も抱えていると足手まといになるからでしょう。
何せ彼らの移動は、女が重たい家財道具をしょって歩くのが決まりで、男は、敵の襲来にそなえたり獲物を捕まえるために、弓矢だけしか持たない。
いずれにせよ、大きな群れは、南の民の性に合わない。だから、自然に「家族」という単位が生まれてくる。
で、5万年前のアフリカのホモ・サピエンスもまた家族的小集団で移動生活をしていたのであれば、むやみに子供の数は増やさないようにしていたに違いない。
たとえば、もしライオンに襲われたら、子供を抱えている女が、子供もろとも真っ先に餌食になるほかない。何しろ家族的小集団なのだから男手は少なく、原始人の能力では、簡単に追い払うことはできない。
アフリカの伝統である一夫多妻制も、人口増加には、けっして効率的だとはいえない。
家族的小集団で移動生活をしているかぎり、むやみに人口は増えない。であれば、そういう生態を持った人種が、またたく間に人口爆発を起こして数万年前の地球上を覆ってしまったなんて、どうして信じられよう。
ホモ・サピエンスだろうとネアンデルタールだろうと、そのころの原始人の世界で人口爆発が起きるなんてことは、ありえないのです。研究者の空(妄)想を当てにしないかぎりには。
ただ知能が発達していい暮らしをしていれば人口が増えるというものではないし、ホモ・サピエンスの知能は発達していたという研究者の説く根拠だって、なんだかあやしいものばかりです。
人口増加は、たくさんエッチしてどんどん子供を産んでゆくような社会の構造があってこそ実現することです。こんなこと、あたりまえでしょう。知能がどうとかということなんか、関係ない。
出土した骨を検証した結果においても、ネアンデルタールの方がたくさん子を産める骨格をしていたことは、ちゃんとわかっているのです。
南のホモ・サピエンスの社会は人口が増えないような構造になっていたし、極寒の地のネアンデルタール社会は、人口を増やそうとしなければ人口が維持できないような構造になっていた。
したがって気候が温暖化して、乳幼児の死亡率が下がるとか、混血して新しい遺伝子を取り込むことによっていくぶん寿命が長くなるとか、そういう条件がもたらされれば、ネアンデルタールのほうこそ一気に人口が増える可能性を持っているのです。

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