新聞・雑誌であれ、テレビ・ラジオであれ、現在のこの国におけるマスメディアの退廃は目を覆うばかりだ、と嘆いている人がたくさんいる。とくにこのネット社会は、ひとまずマスメディアと対抗する勢力になりつつあるから、そういうことをいう人がたくさんいて、そんなことを大合唱していやがる。
おまえらだって同類の同じ穴のムジナさ。
現在のこの国は、そういうマスメディアが生まれてくるような社会のかたちになっている、というだけのことだろう。問われるべきは、そちらのほうだろう。
そして、マスメディアを非難したがる連中がうようよいる社会である、ということだ。
マスメディアを非難して、何か自分がえらくなったつもりでいやがる。
そういうマスメディアを持ってしまったわれわれの運命というものがある。われわれの社会は、そういうマスメディアを生み出してしまうような病理をどこかしらで共有してしまっているのだ。そのことこそ問われるべきではないのか。
マスメディアもネット社会でも、みんなしてえらくなったつもりでいやがる。
マスメディアなんて、いつの時代もそのていどのものさ。戦時下の言論統制や言論自粛よりひどいというわけでもなかろう。
ネット社会の連中がえらそげにマスメディアを裁くように、マスメディアもこの世界を裁くような物言いが多くなってきている。そういう平和な時代なのだ、ということだろうか。
舌なめずりして他人を裁く愉悦に浸りたがる「クレーマー」ばかりの世の中になってしまっている。
もちろん僕だって、気を抜くと、ついそんな態度をとってしまっていたりする。
この社会の平和と豊かさと停滞と得体の知れない不安が、そんな現象を生み出しているのだろうか。
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こんなにも平和で豊かな社会なのに、なぜこんなにも得体の知れない不安に追いつめられなければならないのだろう。
それはきっと、その平和と豊かさが人間の自然に沿ったものではないからだろう。そして人間の自然に沿っていないということは、生き物としての自然にもかなっていないということだ。
この平和と豊かさによって、アメリカ人の精神がもっともあからさまに壊れていっている。そしてやつらの多くはまだ、薬だけでこの精神の崩壊が治癒できると思っているらしい。そう思うことそれ自体が、精神の崩壊であるというのに。
たぶんわれわれは今、パラダイムの変更を迫られている。
たとえばマルクスの「下部構造決定論」的な思考で時代や歴史や進化論を語ることは、全部無効なのだ。その思考法は、変更されなければならない。しかしまだまだ大勢は、その思考法の既得権に居座ろうとしている。
生態学のもっとも重要なパラダイムのひとつであるにちがいない「共存共貧」という概念がいっこうに定着できないでいるのは、人々が「下部構造決定論」的思考をなかなか手離そうとしない、ということが大きな壁になっている。
つまり、人々はいまだに「共存共栄」という理想が成り立つと思っている。世の中は経済(=下部構造)で動いているとか、生き物は生きようとする本能を持っているとか、歴史や生物の進化は食い物を求めるいとなみが中心で流れてきたのだ、というような「下部構造決定論」的思考が成り立つのなら、たしかに「共存共栄」も理想の旗印になりうるだろう。
しかし、そういう旗印のもとに、現代人の精神が崩壊していっているのだ。それが人間の自然とは矛盾しているから不安になるのだ。
人間の自然も、生き物の自然も、「共存共貧」の上に成り立っている。このかたちを真実として迫ることができていないから、現代人の精神が崩壊し、アメリカ人は薬漬けになっているのだ。
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「共存共貧」という概念の厳密な定義などたいした問題ではない。半分は人それぞれの恣意的な解釈にゆだねられるべきだ。問題は、そこからどう展開できるかということにある。展開できなければ、思考とはいえない。
「共存共貧」は、たがいの献身と連携がなければ成り立たない。「贈与と返礼」の経済ごっこでは成り立たない。
たがいの献身と連携の「共存共貧」によって、原初の人類は二本の足で立ち上がった。それによって実現したたがいの身体のあいだの「空間=すきま」は、先験的に「共有」されているものであって、どちらかが「贈与」したものでも「返礼」したものでもない。ただもう誰もが、群れの中におけるみずからの身体の占めるスペースをできるだけ小さくとろうとしたこと(=貧)の結果にすぎないのであり、そういう無意識の「献身」と「連携」によって実現されていったのだ。
そしてこのことこそが、「生物多様性」を成り立たせている生き物の自然のかたちにほかならない。
草茫々の原っぱも、それぞれの草が、他の草の邪魔をするまいとするかのように下から上に伸びてみずからの身体スペースを最小限に保ちあっていることの上に実現されている。人間が二本の足で立ち上がったのも、これと同じなのだ。
すなわち人間は、生物が自然としてそなえているシステムを「意識化」して存在している、ということだ。
生き物の群れが成り立つためには、他者の身体とのあいだに「空間=すきま」が確保されていなければならない。
限度を超えて密集した群れの中に置かれている人間は、この「空間=すきま」を切実に必要としている。
そのとき人類は、自然にそむいても自然であろうとしたのだ。
よく「人間は本能が壊れた存在である」といわれたりするが、そうじゃない、そんなふうに居直るのはただの思考停止である。人間は、本能にそむいても本能的であろうとしているのだ。われわれは本能(=自然)にそむいて存在していると嘆きつつ本能的であろうとしているのであり、そういうところから人間的な「連携」や「献身」が生まれてくる。
われわれは、「自然にそむいている」と嘆きながら生きている。これが、古代人が自覚していた「けがれ」の意識である。しかし現代人はその嘆きを振り捨てて「人間は本能が壊れた存在である」と居直って生きている。だから、得体の知れない不安にとりつかれたり、インポになっちまったりする。
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現代人が自然にそむいて生きていることを、ひとまず責めるまい。マスメディアがあんなにとんちんかんな言説を垂れ流すのもしょうがないのだ。
しかし、自然にそむいた「共存共栄」を正義のように振りかざしていたら、もはや人間であることすらできない。
あなたたちは、「神」になって、人間であることをやめようというのか。
共存共栄で生きつつ、共存共栄で生きるまいとするのが人間なのだ。人間は、自然にそむいていることの「嘆き」をけっして手離さない。手離していないことの証しとして、セックスをし、「献身」をし、「連携」してゆこうとするのだ。現代人だって、無意識のところではそうした「共存共貧」を手離していないから、得体の知れない不安が起きてくるのだ。
共存共栄がそんなにすばらしいのなら、インポはまさに共存共栄の成果なのだから、もはやセックスなんかしようとしなければいいのだ。しかしそれでもなんとか勃起させようとするのは、生き物でありたいからだろう。すなわち生き物として、みずからの身体のスペースをできるだけ小さくして、身体の輪郭をよりクリアに感じたいのだ。それが「共存共貧」であり、そこでこそ生き物としての根源的なカタルシス(浄化作用)が汲み上げられる。
他者の身体とのあいだの「空間=すきま」をつくろうとするのは、そのままみずからの身体の輪郭をクリアに感じたいという衝動でもある。生物はそういう身体のシステムを持っているし、人間はそれを「意識化」して生きている。
ほんとうに「本能が壊れている」というだけですむのなら、ひとまずすべてOKの世の中だ。「本能が壊れている」というだけでちんちんが勃起するのなら、誰もインポになんかならない。しかしそういうことは、なんのかのといっても、身体の輪郭をクリアに感じるという本能的な現象なのだ。
現代人は、そういう本能的な現象を喪失していることにいらだっている。みんなして政治やマスメディアにクレームを付けたがるのも、そういう「公共性」にみずからの身体の輪郭を絡めとられるのがいやなのだ。ことばが「意味を伝達する」とか「説得する」というような機能ばかりになってしまって、他者の身体とのあいだの「空間=隙間」をうまく保てなくなっているからだ。そうやって、みずからの身体の輪郭がクリアになってこないことにいらだっているのだ。
しかし、政治やマスメディアに対する批判にしろ、学校や市役所や居酒屋でのいちゃもんにしろ、公共性の正義で公共性に文句をつけているだけなのだから、いつまでたってもいらだちは解消されず、カタルシス(浄化作用)はやってこない。
それもこれも、みなさん、いまだに「共存共栄」を信奉しているからだろう。
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わかりやすいタイトルだけど、いちおう現在の若者論であり、日本人論として書きました。
社会学的なデータを集めて分析した評論とかコラムというわけではありません。
自分なりの思考の軌跡をつづった、いわば感想文です。
よかったら。

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