日本人は、だめになってしまったのか。
僕には、よくわからない。
ただ、ちょっと弱ってしまっている、という気配はあるのかもしれない。
だから、「萌え」とか「癒し」というような体験を欲しがる。
草食系男子とかニートとかフリーターとか引きこもりとか、そうした現象は、元気な社会ではあらわれてこないにちがいない。
しかし弱っていることは、そう悪いことでもないような気もする。人は、弱っている心で、世界や他者にときめくのだ。
現在のマンガやアニメやファッションの「かわいい」という若者文化が世界から「ジャパンクール」としてもてはやされているということは、それだけ日本の若者は豊かな「ときめき」を持っているということを意味するのではないだろうか。
世界中の若者が、日本の若者のようにときめいていたいと願っているのかもしれない。
それは、「かわいい」という「ときめき」が発信されているのだ。
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ただ困るのは、こんな状況では、元気のいい声高な人たちに世の中が引きずりまわされてしまいがちになる、ということ。
日本人はだめになってしまった、日本人はかくあるべし……などと叫ばれても、それはちょっと困る。
われわれはどんな人間になるべきか、ということなど、誰にも決められない。それに、人間なんか明日も生きてあるかどうかわからないのに、そんなふうに自分をつくっている暇などあるのだろうか。
われわれはもう、有り合わせの自分で生きてゆくしかない。
有り合わせの自分で生きてゆくしかない、と思うこと自体が、弱っている証拠だろうか。
あるべき日本人のかたちなどない。
われわれはすでに日本人なのだ。
日本人だから弱ってしまったのだろう。
であれば、日本人のあるべきかたちを示すのではなく、日本人とはどんな民族だろうか、と問うしかないのではないだろうか。
つまり、日本文化の根源的なかたちが知りたい。
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われわれは西洋人とはどんな人たちだろうかということは知りたいが、西洋人のようにはなれない。
べつに西洋人が人間の理想のかたちを実現しているわけでもないだろう。
というか、人間の理想のかたちなどないのだ。
日本人も含めた普遍的な人間のかたちが知りたいのだ。
われわれがだめになってしまったのなら、どこがどのようにだめなのかを知りたい。そしてそのだめな部分を自覚して生きてゆくしかない。
だめだからいけないというようなことなど言われても困る。
われわれに明日はないのだ。
この生は「いまここ」で完結させるしかない。人間とはそのようにして生きてある存在だということに、われわれは気づいてしまった。
誰であれ、未来に向かって自分をつくり変えていかねばならない責務など負っていない。
生命力とは、「いまここ」でこの生を完結させる力のことだ。
腹が減ったら、「いまここ」で食うしかない。
体に毒が入ってきたら「いまここ」で排出するしかない。排出する力を養えといわれても、間に合わないのだ。
誰もが有り合わせの自分で生きてゆくしかない。
「いまここ」以上に確かな生の瞬間などないし、われわれは「いまここ」の外に生を見つけることなんかできない。
そして「いまここ」の外に死を見つけることもできない。古代の人々が「死んだら何もない<黄泉の国>に行く」といったのは、まあそういうことだろう。われわれ日本人は、そういう歴史的な無意識を抱えてしまっているらしい。
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人生のほとんどのことはお金で解決するのだろう。それはきっとそうだ。
しかしお金がない人間はどうすればいいのか。
それでもこの生は、「いまここ」で完結させるしかない。
たくさんの問題が、お金を使えば解決できる。
しかしわれわれには、お金を稼いでいる暇はない。
この生は「いまここ」で完結してしまっている。
お金を稼ぎなさい、といわれても困る。
正しい日本人であれ、といわれても困る。
われわれはすでにわれわれであり、われわれはすでに日本人である。
どんな人間になろうかという以前に、空気を吸って、「いまここ」に生きてあるという驚きや怖れやときめきやなやましさがある。
人は、どうしても「いまここ」の「有り合わせの自分」で生きようとしてしまう。
いや、生き物はみんなそうやって生きている。
われわれのこの命は、そのような仕組みになっている。
「いまここ」で息を吸わないと生きられない。
どんな人間になれという権利など、誰にもない。
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わかりやすいタイトルだけど、いちおう現在の若者論であり、日本人論として書きました。
社会学的なデータを集めて分析した評論とかコラムというわけではありません。
自分なりの思考の軌跡をつづった、いわば感想文です。
よかったら。

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