ネアンデルタール=クロマニヨンが大きな集団を形成するようになっていったことの基礎には、おそらく「恋(=セックスアピール)」の文化が生まれ育っていったことがあるのだろう。
こういうことを、一般的には、「食糧生産」や「生き延びるため」などという広義の「経済」の問題として語られている。
しかし、経済の問題は、つねに「結果」であって「契機」ではない。集団が大きくなってきたから、食料の確保や生き延びるという問題が生まれてくるのだ。集団が大きくなっていった「契機」は、生き延びるためにそれが効率がいいと思ったからでもなければ、ましてや集団を大きくしようとする衝動がはたらいたからでもない。
集団を大きくすればどうなるかもわからない時点で、集団を大きくしようとする衝動が生まれてくるはずがない。だいいち集団が大きくなれば鬱陶しいに決まっているし、混乱が起きてくるに決まっている。それでどうしてそんなことを計画しようとするだろう。
人間は、根源的には「未来」を予測(=イメージ)しない。未来を予測しなかったから、こんなにも大きな集団を形成するようになったのだ。
世の人類学者たちは、「未来に対する計画性」が人類の文化の発展をもたらした、などと合唱している。まったく、アホじゃないかと思う。そんな「経済」の文脈では原始時代は語れない。おまえらの考えることなんかその程度か、と思う。
何かをしようと計画することは、まあ「経済」の問題に違いない。しかし、そんな経済の問題は、一切なかった。気がついたら、集団が大きくなってしまっていたのだ。
ただもう、人と人の関係に今まで以上にときめくという状況が生まれてきて、集団が大きなっていっただけのこと。それ以上でも以下でもない。食料の問題も生き延びることも関係ない。そのためなら、むしろ集団は大きくならない方が効率的なのだ。
ただもう、人と人がときめきあっただけのこと。それだけのことであり、それ以外に集団が大きくなってゆく契機など何もないのだ。
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集団を大きくしようとする合意が形成されていったのではない。それは彼らが生き残ろうとしていたということだが、しかし生き残るためなら、生き残るのに不都合なそんな計画が生まれてくるはずがない。
生き残りたいのなら、生き残る能力のあるものだけが集まって、生き残れないものは切り捨ててしまった方がよい。なのに彼らは、誰もかれもが寄り集まって、みんなして生き残る能力のないものを生き残らせようとしていった。その悪戦苦闘から、より生き残る能力を持っていっただけのこと。生き残ることなど何も考えなかったから、生き残ることができるようになっていったのだ。
原始人は、自分が生き延びようとしたのではない。他者を生かそうとしたのだ。他者を生かそうとすることが、彼らの生きるいとなみだった。
貧乏人の家族なら、親は何も食べなくても子供に食べさせようとするだろう。ろくな文明も持たない原始人の身で氷河期の北ヨーロッパに住み着いていったネアンデルタールとその祖先たちだって、おそらくそのようにして生きていたはずだ。彼らの社会でも、死にそうなものから順番に食べていった。
人と人のあいだには、「献身」の衝動がはたらいている。それはもう、きっとそうなのだ。
献身とは、他者の存在に気づくことだ。他者の存在を深く感じること。誰もが他者を生かそうとしていたネアンデルタールは、現代人よりももっとそのような心の動きをヴィヴィッドにそなえていたにちがいない。そういう心の動きの上に彼らの生が成り立っていた。
彼らは、自分のことは忘れて、深く他者に気づいていった。原始人の文化は、そのような心の動きから生まれてきた。言葉の起源も、恋心の発生も、集団が大きくなってきたことも、そこを契機にしているのであって、「経済」の問題なんかではない。
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原始人の集団が大きくなってきたことの契機を考えるなら、経済の問題よりも、恋心(セックスアピール)の発生の方がずっと確かな問題なのだ。
つまり、深く他者に気づいてゆくこと。そうして献身してゆくこと。そういうことが原始人の生を根源において支えていたのであって、自分を表現し伝達するとか、自分が生き延びようとするとか、そういう広義の「経済」の問題など一義的にはなかったのだ。
けっきょく世の人類学者たちは、そろいもそろって経済の文脈でばかり考えているから、誰ひとりネアンデルタールという原始人の心に推参してゆくことができない。
他者に深く気づいてゆくという心の動きが、原始人の集団を大きくしていった。そしてその心の動きともに恋(セックスアピール)の文化が生まれ育ってきた。
ろくな文明を持たなかった原始人は、生きにくい生を生きていたそのぶんだけ、現代人よりもずっと深く豊かに他者に気づいていった。そこから恋(セックスアピール)の文化が生まれ育ってきた。
言葉の起源は、自分を表現し伝達しようとする衝動が契機になっているのではない。原始人は、第一義的にはそんな衝動は持たなかった。あくまでこの世界や他者に深く気づいていったその心の動きのダイナミズムとともに「音声」がこぼれ出て言葉になっていった。そこのところで、西洋の言語学者の考えることなんか、ぜんぶアウトだ。もちろんその考えに追随しているこの国の研究者だって、さらにお話にならないレベルであることは言うまでもない。
言葉の根源的な機能は、「伝達」にあるのではない。たがいに「気づく」という心の動きを「共有」してゆく機能として生まれ育ってきたのだ。
しかしまあここでは、言葉の起源を語りたいのではない。人と人の関係の根源は「伝え合う」ことではなく、「気づき合う」ことにある、ということだ。
「教え合う」のではなく、「学び合う」ということ。教えてなんかもらわなくても、人は勝手に学んでしまうのだ。教えることによってしか人間が成り立たないのなら、人間なんかきわめて単純な存在でしかない。勝手に学んでしまうから、この世界も人間も、ややこしくもなり、深くもなり、豊かにもなりしてゆくのだ。
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この「勝手に学んでしまう」という心の動きから、恋(セックスアピール)の文化が生まれてきた。そしてこのような心の動きは、現代人よりも原始人の方がずっと豊かだったにちがいない。
たとえば明治時代の人々は、現代よりずっと貧弱な教育環境にありながら、たちまち自分で学んで語学力を身につけ、原書を読んだり西洋に留学したりしていった。
今でも、大人よりも子供の方がはるかに語学を学んで身につけてゆく能力が高い。
スポーツや芸事は、子供のときからはじめないと一流にはなれない。それは、子供の方が勝手に学んでしまう能力が高いし、勝手に学ぶことができなければ上達しないからだ。
師匠に教えてもらったことだけしか身につかなくてそればかり当てにしていたら、内田樹先生の武道と同じで、いつまでたっても下手っぴーでいるしかない。
現代社会は、教育という制度が幅を利かせすぎて、子供たちから学ぶ力を奪っている、ということがある。子供の学力が低下しているとしたら、教育制度が充実しすぎていることに原因があるのであって、子供が悪いんじゃない。内田樹先生は、「下流志向」という著書の中で何もかも子供が悪いかのようにいっているのだが、そういうことじゃないのだ。先生のように師と弟子という主従関係に潜り込んでゆかないと何も学べない人間からすると、子供が潜り込んでゆかないことにそういう関係がぎくしゃくしていることのいちばんの原因があるように思うのだろうし、大人たちは躍起になって潜り込ませようとしているのだが、むしろそういう関係から解き放ってやることの方が大事なのだ。
その証拠に、そういう関係から解き放たれたケータイいじりや「かわいい」のファッションなどの遊びのことなら、この国の子供たちは世界で一番進んだ能力を持っている。ケータイいじりに関してなら彼らはおそろしく複雑な思考をしているし、「かわいい」のファッションのことならじつに豊かな感受性を発揮して世界をリードしている。
これらのことがわれわれに何を教えてくれるかといえば、人間性の基礎や人間の能力の可能性は「勝手に学んでしまう」ことにある、ということだ。
大人が教えなくても、子供はちゃんと勝手に学んでいる。内田先生みたいに大人の既得権益や優位性を何がなんでも守りたい人間には、そんなことは絶対認めないんだろうけどさ。
それでも人は、勝手に学んでしまう。大人たちがなんと言おうと、人間性の基礎も可能性も、そこにこそある。
ネアンデルタール人たちは、どんどん勝手に他者にときめいてゆくようになっていった。そういう心の動きを契機にして、彼らの集団が大きくなっていったのだ。
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