原初の人類が直立二足歩行をはじめた700万年前ころ、チンパンジーやゴリラなどの霊長類の猿は、南ヨーロッパからアフリカ全域まで棲息していた。
しかし地球気候は徐々に寒冷乾燥化してきて、200万年前ころには、ほとんどの霊長類がアフリカの赤道直下に集まってきて、アフリカの北回帰線以北にはいなくなってしまっていた。
つまり、赤道直下でのテリトリー争いが熾烈になってきた、ということだ。
で、そこから追い出されていったのは、人類の祖先たちだった。彼らは、南下してきた他のライバルたちと入れ替わるように北上してゆき、とうとうアフリカの外にまで追い出されていった。
もちろん赤道直下に残った者たちもいたが、弱い群れほど北へ北へと押し出されていった。
彼らは、体の大きさも知能のレベルも、チンパンジーとほとんど変わりなかった。おまけにチンパンジーよりも動物としての身体能力に劣っていた上に、ライバルと境界線を接して緊張関係を保ちながら共存してゆくことができず、他の群れのテリトリーとのあいだに空白地帯がないと共存してゆけないという習性だったから、もう必然的に追い払われてゆくしかなかった。
進化が遅れていたいちばん弱い形質の群れがアフリカを出て行ったのだ。
おそらく赤道直下に残った人類の群れと比べると、50万年くらい身体的な進化が遅れていた。
考古学の発掘資料によると、ひとまずそういう結果が出ている。
したがって、それ以後の人類の歴史は、つねにアフリカの赤道直下以南の地域がもっとも文化的にも進んでいた。
アフリカを出て行ったのは、進化がもっとも遅れていたグループだった。
これが、人類の先史時代の法則である。現在の環境にうまく適合できない能力の劣ったものたちが拡散していったのだ。であれば、4万年前にアフリカを出た強力で先進的な群れがヨーロッパに移植していって原住民であるネアンデルタールを滅ぼした、ということもあり得ない。環境に適合している群れは、出てゆきはしないし、適合できない瀕死の群れがはるばるヨーロッパまで旅をしてゆく能力もあるはずがない。そのころ、ヨーロッパに入植していったアフリカ人など一人もいないのだ。
先史時代には、近在の群れどうしで女が交換されていたというだけの話。だからそのころだって近親相姦などほとんどなかったし、そうやって遺伝子だけが群れから群れへと旅をしていっただけのこと。
人間は、けんめいに住み着こうとする生き物である。その苦しさうっとうしさに耐えてけんめいに住み着いてゆくから、旅が娯楽になっているのだ。
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というわけで、最初にアフリカの外の地へと拡散していった者たちは、どのていど進化した個体だったのだろうか。
人類全体が、まだ体の大きさも知能も、それほどチンパンジーと変わりがなかった時代である。
だったら彼らの体には、まだ猿と同じような体毛に覆われていたのかもしれない。
人類の体毛はなぜ抜け落ちていったか。
これには諸説がある。二本の足で立って歩くようになったから新陳代謝が変わったとか、突然変異が起きてそうなった、というような乱暴な説もある。
ダーウィンは、体毛の薄い個体が好まれたからそのような方向で淘汰されていったのだ、といっている。これも、アホじゃなかろうか、という説だ。みんなに体毛があるのなら、体毛のない個体なんか気味悪がられるだけだ。そういう「目的論」で解決がつく問題であるはずがない。
体毛の抜けるいちばんの原因は、老化を除けば、ストレスにある。
おそらく「見つめられている」というストレスによって抜け落ちていったのだ。
人間の群れは、限度を超えて密集して、たがいに見つめあっている。ただでさえ密集している上に、直立二足歩行は他者を見つめてしまう姿勢である。
ライオンが正面から向き合えば、けんかをしているのだろう。ほとんどの動物にとって正面から向き合うことは、戦闘態勢に入っている姿勢である。だから、立ち上がってわざわざ急所をさらすようなことはしない。チンパンジーはつねに他者や他のテリトリとリートの緊張関係を生きているから、けっして直立二足歩行を常態化させるということはしない。
しかし直立二足歩行する人間は、あえて急所をさらして向き合っている。向き合うことは他の動物以上に危険な事態であるが、同時に向き合わなければ、相手に戦意がないことを確認することはできない。向き合うことによって親密になる。これは、他の動物とは決定的に違う生態である。
そして、この生態によって毛が抜け落ちてきた。
向き合えば、とうぜん見つめ合うことになる。見つめ合うことによって親密にもなるし、敵対したりもする。というわけで人類は、「見つめられている」という視線をつねに意識している存在になっていった。
原始的な群れであるあいだはまだ良かったが、さらに密集した群れを営んで知能も発達してくれば、その「見つめられている」という意識が、意識の表面に出て特化してくる。
人類が石器を工夫したりして知能が急速に発達してきたのは、200万年前以降のことである。それと同時に、「見つめられている」という意識も表面化してきて、そのストレスとともに体毛が抜け落ちていった。
それに、体が大きくなってくれば、同じ個体数の群れでも、そのぶん「密集している=見つめられている」という意識は強くなってくる。
そういうストレス以外に、体毛が抜け落ちていった原因は考えられない。
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では、どうして女のほうがよりあからさまに抜け落ちていったのか。
ダーウィン先生のいう、体毛の少ない女が好まれたからだ、という説は、半分だけ当たっているが、それが根源的な契機ではおそらくない。
二本の足で立ち上がることによって、女の性器は股のあいだに隠されるようになったし、男の性器は外にさらされてしまった。そこで、たがいに見つめて見つめられる関係が発生した。
未開人の男のペニスケースはもっとも原始的な衣装のひとつだろうが、見つめられることの居心地の悪さから生まれてきたのだろう。その居心地の悪さを孔雀のようなデモンストレーションの道具に変えていったのがペニスケースだ。
そして女に対しては、猿のときのようにいきなり後ろからずぶりというわけにいかなくなり、探し当てて発情しているかどうか確かめなくてはならなくなった。
女だって、人類の体や脳が大きくなってくれば、子供に与える母乳も大量に必要なってきて、それとともに乳房が大きく目立つようになってきた。そして乳房が大きくなることは発情する年齢に達していることの証しだから、男はどうしても注目するようになる。
また、限度を超えて密集していれば、たがいの体臭をあからさまに感じるのは密集のうっとうしさを増すことになるから、人類の嗅覚はしだいに鈍磨していった。嗅覚が鈍磨すれば、メスの発情状態を確かめるすべはもう、見ることしか残っていない。
というわけで女は、時代を経るごとに、男以上に「見つめられる」ことのストレスを抱える存在になっていった。
まあそんなこんなで200万年前ころから人類の「見つめる」「見つめられる」という関係がますます濃密になってゆき、しだいに体毛が抜け落ちていったのだろう。
セックスが日常化していったのも、おそらくこのあたりからだろう。そうなれば、ますます「見つめる」「見つめられる」の関係もあからさまになってくる。
ともあれ人類の体毛が抜け落ちていった契機は、正面から向き合って親密な関係をつくってゆく、という生態を持っていたことにあるのだろう。
ダーウィン先生、それはちょっと違うのですよ。
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ここで、もうひとつ大きな問題がある。
西洋人はなぜ肌が白いのか、ということ。
4万年前にアフリカからヨーロッパに移殖してネアンデルタールを滅ぼしていったアフリカ人(クロマニヨン)はそのころの氷河期の激烈な寒さによっておよそ1万年か2万年で肌を白くしていった、と研究者はいっている。
そうだろうか。
そんなかんたんに黒人が白人に変わるだろうか。
現在のエスキモーは、1万5千年前に北アメリカの極北の地に移住していったモンゴロイドの子孫であるが、彼らは白人に変わっただろうか。変わるはずがない。いまだにモンゴロイドのままだし、われわれ日本人よりもっと濃い色の肌を持っている。極北の地で暮らしても、雪焼けというのか、肌が白くなるとはかぎらない。
一年のうちの半分は太陽が出ない白夜が肌を白くしたといっても、ドイツやフランスは白夜ではないし、氷河期において白夜になるような地域は完全に氷に閉ざされて人間も動物も棲んでいなかったのである。
極北の地で暮らしたからといって、肌が白くなるとはかぎらない。
たった1万5千年くらいでは、モンゴロイドでさえ白人にはなれないのだから、アフリカの黒人がかんたんに白くなってしまうことなどありえないのだ。なるというのなら、なるという科学的証拠を示してもらいたいものだ。黒人だってたまに突然変異で真っ白な子が生まれることはあるが、それが群れ全体に及ぶという話は聞いたことがない。
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とすれば、50万年前に北ヨーロッパに入植していったネアンデルタールの祖先たちは、最初から肌が白かったのかもしれない。
チンパンジーの毛を全部むしってしまったら、その下の肌はきっと真っ白だろう。
およそ150万年前ころからヨーロッパに入植していった人類は、そのあとから体毛が抜けていったのなら、肌は白いままのはずである。
アフリカ人は、体毛が抜け落ちていったころから森林の疎林化が加速し、サバンナを歩く機会も多くなって直射日光にさらされながら肌が黒くなっていったのだろう。
しかしヨーロッパに入植したものたちは、そういう体験をしないまま体毛を落としていった。
北ヨーロッパに入植した50万年前の時点でも、まだ体毛は完全には抜け落ちていなかったのかもしれない。そこから、大きく密集した群れをつくって「見つめられる」ことのストレスの強い暮らしの文化を発展させてゆき、すっかり体毛が抜け落ちていった。だから彼らは、白いままの歴史を歩むことになった。
原初の歴史は、北のほうが進化が遅れていた。だから、北の地にたどり着いてはじめて本格的に体毛が抜け落ちていったのかもしれない。
ヨーロッパ人は、進化論的に見て、後進的な人種の末裔である。だから男は他の人種以上に毛深いのであり、そのころ先進的だったアフリカ人の末裔であるのではない。
寒冷気候が彼らの肌を白くしたのではない。最初から白かったのだ。
ひとまずそういう仮説を立ててみたのだが、自信はありません。僕はすべてひとりで考えているから、他の人と対話をしたり議論したりして付き合わせるということをしていません。ほんとはちょっとだけ自信もあるのだが、正当な反論があれば、いつでも撤回します。
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