みんなとはいわないが、一部の分子生物学者が提出する人類学の仮説がいかにくだらないかということの象徴的な例が「ミトコンドリア・イブ」という説だ。
現在のアフリカ以外の地域の人間のすべて遺伝子は15万年前にアフリカを出た一人のアフリカ人女性の遺伝子に集約される、という。
人類がアフリカ以外の地域にも生息するようになったのは200万年位前からのことだが、それから15万年前までの遺伝子の痕跡は何も残っていない、と彼らはいう。そしてその「イヴ」を囲む群れが15万年かけて繁殖し続けて地球上を覆い尽くし、それまでの先住民はすべて滅びたのだとか。
アホじゃないかと思う。そんなことはありえないのだ。700万年から営々と続けられてきた人間のいとなみをなんと思っているのか。人間をなめている数字オタクの頭で考えるとそうなるのか。
たまたま取り出したある数値の計算上はこうなる、というだけのことだろう。
つまり、あるとき人類は、突然変異によって画期的なエネルギー効率のよいミトコンドリア遺伝子を獲得し、それが世界中の女から女へと手渡されて広がっていった、ということだろう。
じっさいに人間がどのようにして地球上に広がってきたかということは、そんなノウテンキな数字遊びでわかることじゃない。それなりに地を這うような「人間」という概念に対する思考を繰り返してやっとわかることだ。
なのに、この説を本気で信じている連中が、アマチュアにもプロにも、世界中にたくさんいる。
ロマンだ、という。くだらない。そんな愚劣な物語のどこがロマンなのか。
200万年前の人々も50万年前の人々も、みんな、どんなに住みにくかろうとそれぞれの土地に必死に住み着いていったのだ。そういう人々の必死のいとなみの痕跡をコケにして、何がうれしいのか。
おまえらは、人間のいとなみの真実よりも、空々しいロマンのほうが大切なのか。
文句があるひとは、誰でもいってきていただきたい。
ネアンデルタールだろうとジャワ原人だろうと、滅びてしまった人類種などいない。
それぞれ交じり合いながら、またみずから骨格を変化させながら、ひとつの人間のかたちになってきただけのこと。
現在の分子生物学のデータでわかることなんか、たかがしれている。おまえらごときノウテンキなオタクが、神の宣託みたいに勝手な結論を下すなよ。
ミトコンドリア・イブ」なんていわれると、胸がむかむかする。
分子生物学なんて、十年かけてやっと、クロマニヨンににもネアンデルタールの痕跡が残っている、ということがわかっただけじゃないか。そんなことくらい、われわれははじめからそう思っていた。せいぜいがんばって、これから、「ネアンデルタールがクロマニヨンになっただけだ」というデータを取り出してくださいよ。
氷河期の極寒の北ヨーロッパでアフリカのホモ・サピエンスネアンデルタールが出会って交雑した、などということはありえない。そのころヨーロッパに移住していったアフリカ人など一人もいない。
そのときすでに拡散していた人々が現在に続いているだのことさ。
「人間とは…」と問うなら、そうじゃないとつじつまが合わないのですよ。
あなたたちの数字遊びで勝手なご託宣を下すのだけはやめていただきたい。
逆にえば、人類学者が、分子生物学者を刺激する魅力的な仮説を提出することができていない、ということかもしれない。
人類の歴史は、根底的に書き換えられなければならない。
僕は、既成の人類学者の仮説だけで満足できるほどお人好しでも知識オタクでもない。この先は、自分の頭で考える。
そして、「人間」という概念を救出したいと思っていますよ。
人と人の関係は、たがいの身体のあいだに「空間=すきま」をつくりあうことによって成り立っている。これが人間性の基礎であり、人類の歴史はそこからはじまっている。それによって、たがいのテリトリーのあいだに「オーバーラップ・ゾーン」をもうけてその緊張関係(=力関係)の中で共存してゆくというチンパンジーなどの猿の生態とは決定的に分かたれた。
人と人は、たがいのあいだに侵略不能の「空間=空白地帯」を持とうとする。これが、直立二足歩行の根源的なコンセプトであり、この生態を獲得したところから人類の歴史がはじまっている。
したがって、原初の人類の歴史においては、一方の種族がもう一方の種族を滅ぼしてしまうということなどはなかったのだ。
そしてどんな種族も、環境が悪化すればひとつの地域で自滅してゆくほかないといった猿やライオンのような生態からは決別していたのだ。どんなところへも移動してゆくし、どんなところでも住み着いてしまう……直立二足歩行によってこの生態を獲得し、この生態によって世界中に拡散していった。
かんたんに「滅んだ」などというなよ、おまえら。
人間は、そうかんたんには滅んでしまわない生き物である。だから、地球の隅々まで拡散していった。ホモ・サピエンスだろうとネアンデルタールだろうとホモ・エレクトスだろうと、みんな同じ人間なのだぞ。ホモ・サピエンスにできることくらい、ほかの種族にだってできるさ。
そして、ネアンデルタールでなければ氷河期の極北の地を生きのびることはできなかったのだ。
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わかりやすいタイトルだけど、いちおう現在の若者論であり、日本人論として書きました。
社会学的なデータを集めて分析した評論とかコラムというわけではありません。
自分なりの思考の軌跡をつづった、いわば感想文です。
よかったら。

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