都市の起源(その三十四)・ネアンデルタール人論185

その三十四・恥知らず!


閑話休題
イギリスの国民投票による「EU離脱の決定」というニュースは、そりゃあ気になる。
この国の政治経済にどんな影響があるかということなどさしあたってどうでもいいが、「イギリスはこれからどうなってゆくのだろうか?」とか「イギリス人とはどんな人たちだろうか?」ということは、どうしても考えてしまう。
じゃあこの結果は、イギリスの国民性をあらわしているのだろうか。世界的な民族主義の潮流のひとつだといえるだろうか。
そんなことをいったって、「離脱」と「残留」の数の割合は、52パーセント48パーセントであり、まあ半々ということ、ちょっとした紛れで結果が逆になってもおかしくない。べつに、それがイギリス人の総意というわけではない。
こんなきわどい差でどちらかに決定してしまうなんて異常だ、ともいえる。
半数の人たちは、この結果に納得していない。その半数の人たちを置き去りしてしまっていいのか。
若者の75パーセントは「残留」を望んでいて、年寄りのほとんどは「離脱」に投票したのだとか。
もうすぐ死んでゆく年寄りのわがままが優先して、これから生きてゆく若者たちの願いが踏みにじられた、ということだろうか。
とくに富裕な年寄りたちは、「離脱」のほうにメリットがあるらしい。
しかしねえ、もうすぐ死んでゆく富裕な年寄りたちがさらなるメリットを望むなんて、なんだかあさましい。そんな彼らに、「恥を知れ!」と批判の声を上げている若者たちも多いのだとか。
そりゃあそうだろうな、と思う。
若者たちには「残留」のメリットの方が大きいのかというと、そう一概にもいえなくて、多くは、そんな損得勘定ではなく、「先進国の一員として多少のリスクを負う責任はあるだろう」と考えているのだとか。
人は、年をとればとるほど、損得勘定で考えるようになる。金だけの問題ではない。体がしんどいから動きたくないということだって、損得勘定だ。すべて「生き延びることができるかどうか」という損得勘定ばかりしている。心の「ときめき」が希薄になって、損得勘定でしかもの考えることができなくなってしまっている。
「損か、得か」という二項対立。まあ、巣鴨の地蔵通りにやってくるお年寄りのインタビューを聞いても、そんなものばかりだ。
僕はもう、運転免許と同じで、いわゆる後期高齢者には選挙権を与えなくてもいいと思う。そうしたら介護環境がひどくなるとか、そういうことはないに違いない。若い人たちがちゃんと考えてくれるから、心配しなくてもよろしい、といいたい。人の世なんて、そういうものではないだろうか。
また「孤独死」が不幸だともいえない。そういうことを「幸せか、不幸か」というような「二項対立」で考えるなよ、という問題がある。気取っていえば、「人間としての尊厳」ということを考えれば、「幸せか、不幸か」というような安直な二元論ではすませられない。
年寄りなんか損得勘定だけで生きている存在なのだから、選挙権など与えなくてもいいし、自分から返上するべきなのかもしれない。しかし、自分から返上するくらいなら損得勘定にしがみつくということもないのだから、彼らこそ返上しなくてもいい年寄りなのかもしれない。
年寄りの投票率は高い。彼らは、損得勘定で選挙権にしがみつく。
まあ、年寄りだけじゃなく誰だって損得勘定で選挙に行っているだけじゃないかともいえそうだが、年寄りの損得勘定が若者の損得勘定を踏みにじってしまってもいいということもないだろう。
みんなで議論するのは結構なことだが、人の世は生き延びるための損得勘定だけで成り立っているわけではないし、そんなことを振り捨てて生きて死んでゆくことができないことの不自然やみすぼらしさというのもある。
人は「生きられなさ」を生きようとする存在であり、そういう生き方の醍醐味(=祭りの賑わい)をもとめて都市に人が集まってくる。損得勘定だけで人の思考や行動が成り立っているのではない。
「残留」か「離脱」か、どちらを選んでも得もあれば損もあるのだろう。グローバリズム民族主義か、というだけの問題でもないのだろう。
イギリス一の都市であるロンドン市民の多くは「残留」を望んだのだとか。
スコットランド北アイルランドだって、「離脱」を望んでいなかった。そんなふうに何もかもイングランド主導でことを進めたいのなら、われわれはもう独立する、という意見も多いらしい。
けっきょく年寄りに選挙権があって年寄りの損得勘定が今回の決定に反映されてしまった、ともいえる。
今、そうしたイギリスの富裕層の年寄りは、若者たちから「恥を知れ!」という言葉を投げつけられているらしい。少なくともそのことに対しては、僕も「そうだよなあ」と思う。
この国だって、巣鴨の地蔵通りを歩いているあの年寄りたちに選挙権があることが必ずしもいいことだとはいえない。年寄りは、損得勘定にしがみつく。あの連中の人生設計や政治判断など、知りたくもない。年寄りがこの先の人生設計などするなよ、政治なんぞに首を突っ込むなよ、とも思う。やっぱりそれは、恥知らずなことだ。