真空状態・ここだけの女性論29


意識が非日常に向いてしまうというタッチは、そりゃあ大人の女よりも若い娘のほうが豊かにそなえているでしょう。
世間ずれした大人の女だって、好きな男の前で思わずはにかんだりすれば、そのときだけは意識が非日常の世界に入り込んでいる。
非日常の世界に入り込んでゆく体験にこそ人間性があらわれるし、それがセックスアピールになる。
どんなに「いい女」であることを見せびらかそうとする作為をたくましくしてもあんがいそれは通じなくて、男は、女の思わず浮かべてしまう表情やしぐさを見ている。
もっとも、かしこい女はその「思わず」という気配を演じて見せる。
キャバクラなどでは、美人が一番の売れっ子になるとはかぎらない。あんがいぼんやりしている娘が売れたりする。もちろん「思わず」を演じて見せることのテクニシャンにも男はだまされる。「思わず」をたくさん持っている娘が売れる。まあ、「やれそうだ」という隙があるということもあろうが、それだけじゃない。女が自分を忘れている瞬間にこそセックスアピールがある。その真空状態に男は引き寄せられる。
自分に執着して迫ってこられると、男は逃げ出したくなる。美人はどうしても自意識がまとわりついているから、わりと敬遠されることも多い。
非日常の真空状態になれる娘は、人間として生きてあることの嘆きを知っている。それはもう、かしこくてもばかでも金持ちの育ちでも貧乏の育ちでも、なれる娘はなれる。そしてどんな女も、なれるときはなれるし、なれないときはなれない。どんな女にも、非日常の真空状態になってしまう部分はあるのでしょう。ここではさしあたりそれを「美しい女」と呼んでいます。



赤ん坊や幼児は、いつでも自分を忘れて真空状態になっているのでしょう。その表情やしぐさの愛らしさに人は引き寄せられる。
大人の女と若い娘とを比べたら、若い娘のほうが真空状態になれる部分を多く残しているのはとうぜんでしょう。
大人になると、「社会の中の自分」というかたちで自意識が強くなり、それが真空状態になることを妨げている。大人の女と若い娘とのセックスアピールの差は、ただ肌のつやや肉の張りだけの問題じゃない。「非日常の感性や気配」にも差があるのです。
いくらベテランのキャリアウーマンが若い娘に負けない肌や肉体をアピールしても、それだけではすまないのですよね。
男は、女が思うほど女の肌や肉体を気にしているわけではない。抱き合ってしまえば、そんなものが見えるはずもないですからね。でも、その女が持っている気配という「姿」は、どうしても気になる。男は、「気配=姿」を抱きしめているともいえる。
セックスの現場では、裸を見て勃起するのではなく、抱き合って勃起してゆくのが普通でしょう。
絵画教室のヌードデッサンの生徒は、誰も勃起していません。
女のセックスアピールにおいて、その女が漂わせている「非日常の感性や気配」は、とても大きな問題です。裸だけではすまない。裸だけでは負けていなくても、やっぱり世間ずれした大人の女と世間ずれしていない若い娘との差はやっぱりあるのです。
若い娘は、男が引き寄せられるような真空状態の気配=姿を持っている。



現代社会ではもう、子供のときから社会に汚されてしまう。
親や学校や塾の教師から洗脳され、社会からの情報もたくさん入ってくる。おもちゃも遊び場も、昔の子供に比べればはるかに社会とのかかわりが密接です。つまり、意識がつねに社会という日常にに浸されてしまって、子供らしい非日常の真空状態に入ってゆく機会が大いに制限されている。
真空状態になるとは、意識が一点に焦点を結んでゆく、ということです。そうして自分もまわりの世界も忘れてしまう。現在の子供はそんな体験が希薄で、つねにまわりの世界に意識が散乱してしまっている。そうやって、子供のうちから社会に洗脳され踊らされてゆく。
大人になったときはもう、すっかり社会化してしまって、非日常の世界に漂いながら真空状態になってゆくという心模様などなくなっている。
そういう大人にはなりたくないという若い娘は多いし、大人になれば避けがたくそのようにさせられてしまう。
思春期の娘というのは、たやすく社会化されてしまいがちな子供時代とすっかり社会化している大人とのあいだの、エアポケットのようなところにいる存在です。成長にともなう身体や心の変調に対する嘆きが深く、それゆえに非日常の真空状態に入ってゆく体験を取り戻している。
まあ男子でもそうだが、彼らは、非社会的な存在です。姿そのものに、個体としての孤立した(非日常的な)気配を持っている。それが、彼らのセックスアピールで、大人のように身体の輪郭があいまいではない。
その気配はだいたい二十代まで持ち越すが、そのあとはもう、どんどん身体の輪郭があいまいになってゆく。
社会に心を売り渡してしまった大人の「いい女」がどんなに肌やプロポーションの若さをアピールしても、ほんものの若い娘のような身体の輪郭の気配のみずみずしい「孤立性=非日常性」はもうありません。



若い娘は、若さをアピールしない。それだけでも大きな違いです。
大人の女が若さをアピールする時点で、すでに自意識がまとわりついてしまっている。
大人の女もいろいろで若い娘もいろいろでしょうが、やっぱり女の真空状態=非日常の気配というのは男にとって魅力的なのです。それを持っていない女に男はプロポーズしない、と思ったほうがいい。
たとえば、電車の中でひとり、無防備な真空状態になってぼんやり外を眺めていたりする若い娘の表情には、はっとさせられるような魅力があります。
それに対して、電車の中は知っている人間がいないから顔をつくる必要がないと安心しているのか、ひとりで座っている中年の主婦らしい女の、人生の垢だか生活の垢だかが染み付いたような険しい表情を見せられると、いくら美人でもがっかりです。そんな顔に男は勃起しないですよ。家の中でもそいう表情を見せてしまうからセックスレスになってゆくということもあるのですよね。
男でもそうです。大人の顔は真空状態=非日常の気配にならない。社会生活の垢が染み付いてしまっている。用心していないときこそ、疲れた自意識をさらけ出してしまう。おそらく、有能なキャリアウーマンの表情だって同じでしょう。自意識を洗い流すということをしていないと、素の顔がどんどん険悪になってゆく。
ふだんの人前ではにこやかな笑顔を絶やさない人が、ひとりで街を歩いているときにはぞっとするような険悪な顔をしていたりする。この社会の日常を生きてゆくのは大きなストレスです。そのいとなみによって地位とか名声とか金とかいろんなものを得たとしても、顔つきそのものはゆがんできて、もうアンチエイジングではどうにもならない。



女から男がどう見えているのかはよくわからないが、男が感じる女のセックスアピールは、たんなる顔かたちの若さじゃないのですよね。男は女以上にこの社会の日常を生きることのストレスを抱えているからこそ、女の「非日常の感性と気配」がこの上なく魅力的な対象として引き寄せられてしまうわけです。
女のセックスアピールは、ただ肌のつややプロポーションだけの問題じゃない。
であれば、仕事盛りの中年の男が勃起不全になったりするのは、意識がこの社会の「日常」に覆われてしまって「非日常」に入ってゆくことができなくなっているのでしょうね。女の裸を愛でることはできてても、それを抱きしめたときの「非日常」の気配を感じることができなくなっている。そのとき、自意識が取れないために、意識が自分の体に残って女の肉の感触をうまく感じることができなくなっている。いや、肉の感触はわかっても、その「非日常」の気配にときめくということができない。何かスポンジのようなものを抱いているという実感しかない。
女のセックスアピールは、それくらい裸だけの問題ではすまないということです。
いくら大人の「いい女」が肌のつややプロポーションをアピールしても、それだけでは男の勃起を引き出すことはできない。
男と女が抱き合うことは、「非日常」の感触であり気配の問題なのだから。



四十代五十代の人妻でもどんどん不倫しているのだから、セックスが肌のつややプロポーションだけの問題ではないことは確かでしょう。
人妻はスケベだからいい、という男の声も多い。それだって、「非日常」の気配のひとつです。
人妻は、キャリアウーマンの「いい女」ほどには、自分の肌やプロポーションをアピールできない。彼女らはむしろ、自分の体を嘆いている。すでにプロポーションがくずれてしまっている女もいるだろうし、自分の体が男に通用するのはもう今がぎりぎりの瀬戸際かもしれないという危機感を抱いている場合もあるでしょう。
しかしその嘆きが、「非日常」の世界に入ってゆく「スケベ」というセックスアピールを生んでいる。彼女らは、子供を産んで育てたり、いろいろ人生の受難を支払ってきている。仕事をして金を稼ぎながら社会生活の「日常」に耽溺している「いい女」とはわけが違う。
肌のつややプロポーションの若さをアピールする大人の婚活女と結婚するよりは崩れかけた体の人妻と不倫していたほうがずっといい、という独身男だっているでしょう。何はともあれ、そのときプロポーションが崩れた人妻のほうにセックスアピールがあるのです。
それは、人間がどれほど「非日常のお祭り」を必要としているかという問題です。
人妻と不倫をしている男にとっては、肌のつややプロポーションという「日常」などたいした問題でない。
すべての人類にとって「スケベ」ということはひとつのセックスアピールであり、それは「非日常」の問題です。
それはもう、若い娘の「真空状態」とけっして別のものではない。
男は、女によって「非日常」の世界にいざなわれる。
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