閑話休題

深く嘆くものは、そう多くのことにときめかない。少ない対象に深くときめく。
好きな相手と一緒に暮らせるならあまり多くを望まない、という人は今の時代でもたくさんいるに違いない。
深く嘆くものは、深くときめいている。
深くときめくものは、深く嘆いている。
そういう女性は、派遣社員であるあなたに恋をすることができる。
人はみな、その胸のどこかしらで生きてあることに嘆いている。そして、ときめいている。
だから、誰もが恋をする。
金なんか稼げなくてもいい。しかし男を磨く必要はあるのかもしれない。いや、あなたはもうそのことをじゅうぶんに自覚しているのだが、ちょっと誤解している。それは、どう自分を表現するかということでなく、自分を捨てて人にときめいてゆくことのできるタッチを持つことなのだ。
あなたが恋をできる男であるなら、女はちゃんとそれを見抜いてくれる。
恋をできる心の動きを持っているものは、恋をしている。
もてる人間と恋ができる人間は違う。
あんなブ男にどうして彼女がいるんだ、とやっかんでもしょうがない。彼は、恋ができる人間なのだ。女は、そういうことをちゃんと見抜く能力を持っている。
彼は、空の青さが目に沁みて、涙ぐみそうになっている。
彼は、恋人に会えないさびしさとやるせなさを、誰よりも深く噛みしめている。その嘆きがあるから、出会ったときに深くときめく。
失恋の嘆きの中に身を置いているものこそ、もっとも深く相手にときめいている。恋をするとは、失恋の嘆きの中に身を置くことだ。そういうやるせなさやくるおしさに耐えることのできるものでなければ、恋なんかできない。
恋をしているものたちは、すでに失恋している。